トレンド
2019年 3Dプリント市場のトレンドとは
3Dプリントがもたらす緩やかなる革命。緩やかですが、人命を救うことに貢献し、新しいビジネスモデルを生み出し、、製品デザインのありかたを再定義するーこのテクノロジーが何をもたらすかに関わらず、これらは革命だと言えるでしょう。しかし、これは決して一晩で起こったことではありません。3Dプリントの革新性は、小さくとも価値ある一歩の積み重ねの上に形成され、何十年にもかけて成長してきたのです。
それでは、2019年に業界を席巻するトレンドとはどのようなものがあるのでしょうか? CEOのフリード・ヴァンクランを含むマテリアライズの各分野の面々に話を聞いてみました。
1.技術ではなくアプリケーションが3Dプリント業界を先導
2018年の3Dプリントの動向を予測したとき、わたしたちはすでにアプリケーション主導型のアプローチに注目していました。私たちが目にしてきたように、業界は新しい技術の開発よりも、3Dプリント技術の適切な用途開発に焦点を移しています。2019年には、財界からの注目も集める可能性が高く、3Dプリントにおけるこのアプリケーション主導型のアプローチは一層強まることになるでしょう。
マテリアライズCEOフリード・ヴァンクランは、2018年にすでにそのような動きが見られたことを説明:
“投資は装置メーカーよりも、特定の分野において、3Dプリントによって真の付加価値を生み出そうと努力する企業や新興企業に向かうでしょう”
かつて技術開発と3Dプリント機製造そのものに投資していたアジア諸国の政府が、いまでは3Dプリント分野でのコンサルティングと共同開発を盛り上げようとしている—これは明確な傾向です。目指すのは、未知の市場に供給しようとするのではなく、3Dプリントを活用して産業の基盤を広げ、それによって製品の市場と需要を生み出すことです。“ユーザーのニーズを創造し、刺激することは、3Dプリンティングをさらに加速させることになります”とフリードCEOは言います。
マテリアライズと韓国ウルサンの工業ハブとのパートナーシップは、この傾向を示す好例です。7月以降、マテリアライズは、ウルサンの複数の製造企業とコクリエーションプロジェクトを進めてきました。現地企業の持つ業界・マーケット・製品の知識をマテリアライズが持つ3Dプリントについての専門知識と結びつけ、さらなる応用例の開発を支援しています。
もちろん、そこには乗り越えるべき大きなハードルがあります。企業が従来通り製造からアディティブマニュファクチュアリングを始めるとき、設計を担当するエンジニアは新たな基準を設ける必要があります。これは「製造のための設計」から「アディティブマニュファクチュアリングのための設計」への移行です。金属3Dプリントに取り組むときには、金属鋳造のためのデザインに必要とされるノウハウだけでは不十分です。
これこそが、新たにこの技術を各用途に最大限の活用を試みる企業をサポートするため、多くの3Dプリント業界のプレーヤーたちがアディティブマニュファクチュアリングに関するコンサルティングを提供する主な理由です。
2. 3Dプリント用ポリマーの普及
昨年は、「2018年には金属3Dプリントが注目される」と予測しました。一年経ったいま、2019年に脚光をあびるであろう3Dプリント素材として樹脂をご紹介します。この動きの中では大規模な材料メーカーが重要な役割を果たしています。
当社研究開発チームの材料専門家であるジョバンニ・フレミンクスは、BASFのような材料メーカーによる新たな推進力を感じています。3Dプリントに特化した新しい材料がR&D施設から生まれ、3Dプリントの製造現場にもたらされる可能性を秘めているからです。
「3Dプリント用の新しい材料は、市販の装置では使用することができなかったため、生産されにくかったのです。現在、大規模な材料サプライヤーが、熱意を燃やし3Dプリント技術を昇華させており、これが3Dプリントにおけるプラスチック素材の安定した急成長につながっているのです」
この動きの背景には、3Dプリントにおけるイノベーションに向けたアプリケーション主導型のアプローチの登場があります。業界が3Dプリントの応用可能性を特定するにしたがい、材料メーカーは、その用途に合った新しい材料を開発するようになるでしょう。2018年、当社ではすでに—レーザー焼結用の ポリプロピレン(PP)と、 光造形用の材料であるトーラスという—2種類の新しいプラスチック素材を導入しました。
この成長は、非常に厳しい基準を持った航空宇宙や自動車など特異性や品質上の要件を満たした材料が必要な産業にとって特に重要です。これらの業界は、アディティブマニュファクチュアリングによって得られる設計上の利点や競争優位性とコストやパフォーマンスの潜在的な欠点を比較検討することが求められてきました。しかし、新しい素材を使用すればこれ以上妥協をしなくてよいのです。企業は、機能試作であれ、量産であれ、それぞれの用途に最も適した素材を選択することができるのです。
試作用途とは対照的に、製造への応用によって、材料開発の成長が促されています。一方でこれは新たな課題を生み出すことにもなるでしょう-それは航空宇宙や医療機器といった、非常に厳しい品質条件が要求される業界における、材料の標準化と装置制御の改善などへのニーズの高まりです。
一方で、企業は、新たに見出された用途に対して、性能の実証された素材を使用しています。マテリアライズとエアバスによるパートナーシップが好例です。このパートナーシップにより、2013年に導入した航空宇宙規格に準拠した材料を使用し、エアバスの商用航空機のキャビン内に設置された最初の3Dプリント部品をマテリアライズが2018年に製造しました。3Dプリントされたメガネの登場は、既存の材料であるPA12を使用して実現しましたことはニッチな実例ですが、本格的な発展は業界のニーズに合った新しい素材の導入によってもたらされるでしょう。
このようなケースからは、“各社が特定の用途のために新しい材料を待っているわけではなく、新しい用途を特定するところから、乗り越えるべき制限に着目し、新しい材料開発を進めることができる”ということを示しています。
3. ソフトウェアが3Dプリントにおける生産性向上の鍵
マテリアライズの専門家の間には、3Dプリントが新しいレベルの成熟に達しつつあるという総意があります。3Dプリントは30年前にラピッドプロトタイピング技術として登場し、カスタマイズ用途の技術に進化し、現在は量産に採用されてきました。業界が3Dプリントを製造システムに統合していくにつれて、課題は技術から経済性へとシフトします。目標は、コストを削減し、効率を上げることです。
「生産性と収益性を高め、コストを削減する必要があります。そのなかでソフトウェアが重要な役割を果たします」とマテリアライズのソフトウェア部長ステファーン・モットは語ります。
ソフトウェアにより、3Dプリントのあらゆる作業をを自動化することが可能になります。 「製造前、製造後のマニュアル作業の自動化は、3Dプリントを拡張可能かつコスト削減に向けた大きな助けとなっています。これにより人的コストの低減だけでなく、プロセス全体の効率性が高められます」とステファーンは続けます。
コストのもとになる主な2つの要因は、消耗品と機械の稼働時間です。もしこれらのリソースの無駄を防ぐことができたらどうでしょうか? 生産性を向上させるもう1つの方法は、3Dプリントのプロセスを解析すること。3Dプリントワークフローに解析を組み込むことで、製造に携わるオペレーターはプリントの開始前に潜在的な造形失敗を検知することができます。造形失敗を防ぐことで、生産コストを大幅に削減し、廃棄率を引き下げられ、全体的な収益性を向上させることができます。
4.独占的なソリューションではなく、テクノロジーに依存しない相互のつながり
自動車、航空宇宙、消費財業界の大手メーカーは、設計上のメリットという点から3Dプリントに注目を寄せています。しかし、現在12兆ドル規模とも言われる世界の製造市場には、これにとどまらずより大きな可能性が秘められているのです。
3Dプリンティングが、その可能性を最大限に引き出し、12兆ドルの市場規模のシェアを高めるために、3Dプリント業界は、相互運用性と中立的なソリューションを提供する必要があります。産業メーカーが最終製品の補完的な製造技術として3Dプリントを採用することを真剣に考えるとき、柔軟性や自由な選択肢がない専有的なソリューションに可能性を限定することはありません。
「3Dプリントの適用を業界として拡大したいなら、協働することで、材料やシステムにおいてこれまで以上にコントロールでき、と選択肢を増やし、最終的にはコスト削減をする必要があります」とフリード・ヴァンクランCEOは説明します。
その方向性として、2018年には、マテリアライズはBASF(世界最大の化学メーカー)と戦略的パートナーシップを結んでいます。これには、よりオープンな市場モデルを推進することで、3Dプリント業界の成長を図る狙いがあります。当社のソフトウェアとBASFの化学分野でのノウハウを組み合わせることで、新たな用途開発が加速し、新しいビジネスチャンスが創出されます。
5.政府による関与の増加
マテリアライズの公共政策担当者ブラム・スミスは、政府関係各所で3Dプリントが議論のテーマとなるのを目にしてきたと語ります。これは2019年に大幅に増加すると見込まれます。この注目の高まりは、3Dプリントが社会において重要な役目を果たしてきており、 「プロトタイピング技術」というレッテルが剥がされている表れです。
「ラピッドプロトタイプ製造から量産まですべてに3Dプリントという言葉が使われてきたため、政府にとって広い視野で理解することは簡単なことではなかったのです。政府による3Dプリントの潜在的可能性とリスクの予測、そして政策を通じてどうやって推進していくのかを把握することは難しいのです」とブラム。
政策の主な懸案事項としては、知的財産の規制と製造物責任が挙げられます。基本的には、インターネットで音楽や映画に見られてきた事態が、3Dプリンティングにおいては、物理的な対象物も伴ってもたらされます。ビジネスモデルを大きく変え、すべての価値がデジタルファイルに移っていくことが根底にあります。
「3Dプリントはサプライチェーンをガラリと変えることになりますが、政府はデジタルファイルにどれくらいの価値があるかを過大に見積もっているように感じます。確かに価値の一部は製品そのものからCADファイルに移行し、それらのファイルをどのように管理するかを考える必要があります」とブラムは述べます。
3Dプリントに携わる企業がどのように振る舞うかは、3Dプリンティングの将来にとって、そしてそれが人々の生活にどのように影響するかということを考える上で重要です。「業界は少し踏み込んで、政府と話し合い、この技術で何が可能のか、何が可能でないのか、そして、何が今後も絶対に不可能なのかを説明しなければなりません。これにより、市民、設計者、患者を保護する安全で優れた規制枠組みを構築することができます」とブラムは結論づけています。
結びの言葉
“2019年には、新たなユーザーが引き続きアディティブマニュファクチュアリングへの道を切り開き、AMによる生産に移行したり、AMを生産に取り込む企業が増えてくることが予期されます。新製品の導入は成功と失敗をもたらし、このどちらも学習機会となり、着実な成長のための鍵だと言えます。私たちは2019年がAM史上の変曲点になるとは考えていませんが、さらなる将来に向かう漸進的な一歩です。緩やかな革命は続いています”
— マテリアライズCEO、フリード・ヴァンクラン
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